Clarsach – 中世のアイルランドの古楽を集めて-

ケルト音楽とケルティック・ハープについて

「ケルティック」というのは「ケルトの」という意味で、北部∃-ロッパ民族のことを言います。ケルト人は、イングランドの中心部から現在のスコットランド、ウェールズ、アイルランド方面へと移動しながら、独特の魅力ある文化、特に音楽を育んできました。

中でも民族音楽として最も有名なのがアイリッシュ・ミュージックで、日本でも“チーフタンズ”や“エンヤ”の大ブレイクにより、急速に人気を高めつつあります。本来ケルティック・ミュージックとは、かなり広範囲なケルト地方の伝統音楽を意味し、アイリッシュ・ミュージックはその中の一つのジャンルとして考えられており、その他に、スコットランド民謡やウェールズ民謡が代表的なものです。

現在の ロックミュージックは「ケルト音楽のメロディ」と「アフリカ音楽のリズム」 が融合してできた音楽らしい。 ビートルズもツェッペリンもケルト音楽の影響なしには語れません。

中世のハーパー

 

ケルト音楽に独特の香りを添えるのがケルティック・ハープ。音量はクラシックギターぐらいの素朴な木製楽器です。クラシックで使用されるハープよりかなり小さめです。またクラシックのハープはナイロン弦を使うのに比べて、 金属弦 を用い、チェンバロに似た可憐なサウンドです。
中世 はハープの全盛期で、貴族、王族のパーティでダンスや詩の伴奏をしたり、子守歌として演奏されていました。1800年代になり、イングランドの弾圧によりアイルランドの勢力が衰えるとともに、 ハーパー *(ハープの演奏者)の数も減り、殆ど忘れられた状態になってしまいました。

今日では、アメリカ、カナダを中心にケルティック音楽が見直され、演奏者、愛好者の数は増えつつあります。 このためケルトの民族楽器が主に手作りなため、世界中で慢性的な楽器不足になっているそうです。

* クラシック音楽のハープ奏者は「ハーピスト」と呼ばれています

アルバム Clarsach(クラルサッハ)について

Clarsach

“Clarsach”(クラルサッハ)とはゲール語(ケルト民族の言葉)で「ハープ」を意味します。ハープはアイルランドの公式紋章とされるほど民族の象徴的な意味を持つと共に、古代ケルト時代より魔法の力が宿ると信じられていました。

このアルバムに使用したハープは、柳の樹で作られた胴体に真鍮の弦を張ったもので、14、15世紀の通称「ブライアン・ボルー・ハープ」又は「クイーン・メアリー・ハープ」と 呼ばれているタイプです。

ハープ職人を探すこと3年、制作に約5年の歳月を費やした稀少価値の非常に高いヴィンテージな楽器です。
このハープの最大の特長は、中世時代、子守歌の伴奏楽器として使われたせいか、とても音が小さいということです。もう少し音が出るようにホールを特別に作ってもらったのですが、ホールがギターのように前ではなく、ハープ奏者の方を向いているため、ここから音を拾ってのレコーディングには大変な試行錯誤が必要でした。

現代の私たちの耳は大きな音に慣れすぎてしまって、繊細な音を聞き分ける機能を失いかけているかもしれません。

選曲のこだわり

18世紀以前の中世のハープ奏者達が作った曲のみを選曲
アイルランド民族音楽の初の収集家エドワード・バンティングによる採譜をできるだけハープの形に再現。
坂上 真清のファーストソロアルバム「クラルサッハ」についての本人による解説です。

ケルト時代の十字架中世のハープ奏者達は王や部族の長に仕え、いにしえの伝説や叙情詩を語り、とても高い地位が与えられていました。後にハープを持って国中を旅し、貴族などの為に詩を作り、唄うという吟遊詩人の伝統が、18世紀中頃までアイルランドにはありました。 「クラルサッハ」に収録している全ての楽曲は、18世紀以前にハープ奏者達によって作られたものと推測されます。その根拠はアイルランド民族音楽の最初の収集家エドワード・バンティングにあります。 1792年ベルファーストで開かれたハープ音楽祭以来、失われつつあるハープの伝統を守る為に、 ハープ奏者達が演奏した旋律を書き留めることを任じられた彼は、その後もアイルランド各地を旅し、曲の採集を続け、それらの楽譜を出版しました。 しかし彼はせっかく集めた貴重なそれらの曲を、 当時のハープでは演奏不可能だと思われる形に(例えばピアノ用などに) 編曲して出版してしまい、時には旋律さえも変えてしまったそうです。 現在バンティング本人に関しては評価の分かれるところですが、「クラルサッハ」ではこれらの曲を演奏する際に、彼が厚化粧をしてしまっている部分を極力本来の旋律だと思われる形に戻し、そこに自分なりの薄化粧を施すという作業をしました。 中にはほとんどすっぴんのまま演奏しているものもありますが、 それはそれで十分美しく鑑賞に耐えられると判断した結果です。

レコーディング秘話

ハープの入手も大変でしたが、レコーディングもまた大変でした。 ハープは、本当の意味でのアンプラグドな楽器。 響きが大切なので、音の残響を一切なくしてしまう音楽スタジオでは絶対ムリです。(本来は石窟や銭湯なんかがいいんでしょうが。 )その他、湿気、高温に影響されやすく、すぐチューニングが狂ってしまいます。逆に日本の三味線を湿気の少ないアメリカなんかに持っていくと皮がパンパンになってしまうそうです。 やはり民族楽器というのは、その土地の特有の気候でベストな音がでるようになっている、ということを再確認することに。

というわけで軽くマイクを立てて2週間ほどでレコーディングしようと思っていたエンジニアの目論見は大きくはずれてしまい、マイクのセッティングだけに3ヶ月、そして昼は移動中に楽器が温まってチューニングがゆるむのでレコーディングは夜中のみ、結果約1年もかかってしまいました。その甲斐あって、音の一粒一粒がきらきらと美しく、ファンタジックな世界へと私たちを引き込んでいきます。

またこのレコーディングのテーマは「18世紀の音を20世紀最高の技術で」 ということで、
アンプラグドなハープの音を石造りの王様の館で聴いているような、気持ちのよいサウンドづくりの背景には、レコーディング技術もさることながら、「マスタリング」(専門用語ですが)のこだわりがあります。「K-20」というスーパーハイテク技術を使用しています。
その上日本が世界に誇るマスタリング職人 「小鐵」さんにやっていただくことができました。 (サザンとかやってらっしゃる大御所です。)

DATA

演奏 : ケルティックハープ 坂上真清
CD番号 : BICL-5010
定価:2,500円 (税別、税込価格2,700円)
リリース年 :1999年

収録曲

01.Brian Boru’s March
02.Planxty Irwin
03.Open the Door Softly
04. O! White Maive
05. Irish Jig – Huish the Cat
06.Joice’s Tune
07.Princess Royal
08.Bridget Cruise
09.Wild Geese-Piper’s Dance
10.Irish Lullaby

収録曲の一部をメドレーにしました。

坂上 真清 プロフィール

坂上真清演奏写真10代よりイギリスの伝統音楽に影響を受け、トラディショナルロックバンド“Vermilion Sands”にてギターとハープを担当。
87年以降ケルティックハープで、ケルティック音楽を中心に活躍中。
主にアイルランド大使公邸でのレセプション演奏、アイルランドのオカロランフェスティバル、日本でのケルティックフェスティバル、秋篠宮ご夫妻を招いてのエメラルドボールヘの参加などを中心に活動。
その他CM音楽、CD([T0KY0 BAKUSHI])のリリースの他古楽合奏団『ロバの音楽座』とのクリスマス共演、’ZABADAK’のレコーディング参加など、多方面で活躍。 99年にソロアルバム「クラルサッハ」をリリース。

オフィシャルサイト

CDを聴きながらケルトのお話を楽しむ

アンデルセンやグリム童話などの楽しいおとぎ話の原点は「ケルト」にあるのではないかと思っています。
シンデレラや、日本の「浦島太郎」にもルーツを同じくする話がいっぱいあって興味がつきません。
その中で、ケルト神話を集め、初心者にもとても楽しく、かつ読みながら古代ケルト人の考え方や民族性もわかるお話の構成で、子供から大人まで楽しめるのが「アイリッシュ・ハープの調べ―ケルトの神話集」です。悲劇、リールの子供達や、英雄クウ・フリンなど、何回読んでもストーリーにひきこまれます。読むのはやっぱり寝る前がお勧めです。

その他ケルト関連のお話はたくさんあって、どれを読んでも楽しさは充分ですが偉大なケルトの物語の蒐集家であり、読みやすく編集した功績で有名なJoseph Jacobsの民話を紹介します。美しい日本語に翻訳されていて、とても読みやすいです。

パブリック・ドメインとして公開されているのは英語のサイトなのですが、わかりやすい英語と、土着な感じのおおらかでなんとも魅力的な挿絵を無料で楽しめます。(表紙にもハープが描かれています)
http://www.sacred-texts.com/neu/celt/cft/cft00.htm

 

アイリッシュ・ハープの調べ―ケルトの神話集: https://amzn.to/3yKdyFK

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