初めての方へ:翻訳を上手に依頼する際のポイント

外国語版の映像制作は初めてで、 「英語版作りたいけれど、どうすればいいの?」 という担当者からの問い合わせが多いので、ここにまとめてみました。

■だれに見せるのか?

最近では、営業促進を目的した映像だけでなく、M&Aにより、新たに会社のメンバーになった海外支店のスタッフや、その雇用を目的とした、企業案内やブランド周知の映像が増えつつあります。また、同じ商品や技術の紹介でも、業界内と一般対象では言葉の選択などのアプローチが異なります。対象を意識することで、よりダイレクトに映像が利用されることになるでしょう。

■ナレーションより字幕?

ナレーターを雇うより、字幕で対応する方がコストが節約できるのではないか、というのは錯覚です。コストは節約できるかもしれませんが、その映像を活かせるかどうかで言えば、ナレーションの方が伝わる力が強いです。総じて外国語はテキストの量が多く、表示時間が短くなって、映像を見る時間が少なくなるからです。

■単位はどうする?

売上規模何億円、時速何km、単位もケアする必要があります。その他、温度を表す摂氏、華氏はどちらがいいかリサーチする必要があります。同様に、江戸時代や東京ドーム何個分などの表現は、そのまま直訳しても伝わりません。例えば江戸時代なら西暦や世紀などの数字で直接表すのか、「昔の日本の商人が台頭してきた時代」のように、イメージが湧きやすい簡単な説明を付け加えるのか、お客さま自身の判断が必要です。(ご相談いただければ、もちろん一緒に考えます)

■オリジナルの台本を海外向けに見直す =ベストな選択

日本の企業が自社の紹介映像を作る時、定石として、ロケーションの説明から始まることがよくあります。工場や、本社の所在地は、水や自然に恵まれた、あるいは日本のどこに位置する県にあるのかなど。僅か3分程度の映像尺で、45秒も本社の所在地の説明をするのはもったいないです。ここは、海外向けのシナリオということで、日本語と同じ映像を使いつつも、会社の精神や、最近の活動状況の説明に費やす、あるいは映像も変えて、本筋である自社製品やサービスに重点を置いた配分にするのか、台本の見直しをおすすめします。

■日本語ならではの言葉

「漫画、うまみ、盆栽、かわいい、台風」といった、特別な日本語が海外でも知られるようになってきました。この流れで、企業映像の中に「ものづくり(Monozukuri)」 ,「改善(Kaizen)」や「匠(Takumi)」などがそのままアルファベット表記で用いられることが多くなってきました。業界に知られている言葉は問題ないですが、使用に際しては注意が必要です。以前日本の観光誘致の映像で「YOKOSO! JAPAN!」に関わった時、収録スタジオでも、その後のネット上でも「いい言葉のチョイスvs外国人には伝わらない」の両意見が分かれました。未だに自分でも明快な答えが出ないでいます。

■船頭多くして。。。

自社のサービスや製品の販促目的の映像を作る時、さまざまなセクションの担当や営業から「これは外せない」「これも入れて欲しい」と、たくさんのリクエストが入ります。断りきれずにすべてを受け入れた結果、内容がかぶっている、原稿が長すぎて尺に収まらなくて、かなり早口でナレーションが入る、、映像が長くて集中して見られない、という残念な結果になることもあります。各部署には与えられている「尺(秒数)」を明確にしながら作業を進めることをおすすめします。

■インタビューは時間に余裕を持って

インタビュー部分をネイティブの翻訳者用にわかりやすい文章にしようとすると、実は何を言っているのかよくわからないことがよくあります。 「やっぱり」「という風に思います」を連発する方は、インタビューでも再度トライしてもらえれば、本人も嬉しいのではと思うのですが...。

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日本語から外国語への「翻訳」作業のポイント

2014年3月に映像翻訳会社ワイズインフィニティが主催する映像翻訳者フォーラムにて、A&Kの翻訳業務担当責任者 中畑がパネリストとして出席してきました。

ほとんどの映像翻訳が、「海外言語から日本語へ」が主流の中、A&Kは、「日本語から海外言語へ」という、発信側としての日本語を取扱っている視点から、意見を述べてきました。今後翻訳者を目指す方や、日本語版の映像を外国語版へ作り替えようとお考えの方への参考になる箇所もあると思いますので、ここに備忘録も兼ねて記しておきます。

Q) 日英翻訳についてお伺いしたいのですが、日本語から外国語へ翻訳する時の難しさや気を使う点などはありますか?

日本独特の物、言い回しをどう海外に伝えるかです。

例えば、今は使いませんが おサイフ携帯、東京ドーム何個分(関西だと甲子園球場)、24時間365日などです。それぞれの発注の受け方によると思うのですが、おサイフ携帯 をOsaifu mobile phone としても全く通じません。新しい言葉であれば、どのタイミングで説明するのか、それとも違う言葉を割り当ててしまうのかなど、制作スタッフやクライアントと話し合うことが必要だと思います。

同じく東京ドーム何個分という巨大さを表す表現をそのまま翻訳してしまっているスクリプトをナレーションの収録現場でよく見かけます。これは日本国内でしか通用しない表現で、全く気が利かない仕事ですね。では野球のスタジアム何個分と置き換えれば済むかといえば、ヨーロッパやアフリカなど野球場がない地域では使えません。じゃあサッカー場では、、、と、その前にサッカーでいいのか、などどんどん問題の焦点がずれていって、この1語のせいで、ナレーターの拘束時間を無駄にしてしまうことがよくあります。MAスタジオやナレーターの時間あたりのコストを考えると、もったいないですね。

翻訳者あるいはコーディネイターがローカライズについてどこまでやるのか、といった気遣いや思いやりがとても重要だと常々思っています。

ちなみに24時間365日は、英語圏では24時間7日(1週間休まず) という表現をします。翻訳者なら知っていて当然なのに、どうしてそのまま納品されるのかはいまだに疑問です。

Q) 中畑さんは、ナレーションが専門ですが、ナレーションだからこそ必要な知識というか技術はあるのでしょうか?

まずは尺です。 基本的にエンタメとビジネス用の企業映像の翻訳と異なる点は 「省略することができない、または、勝手に省略できない」ところです。たとえば、 社員数59,650人ですが、きっちり人数を言っていると尺が足りないので、「およそ6万人」としたいところですが、たいていの場合クライアントからダメと言われます。こういう時は、話し合いで解決します。字幕で出してもらうという妥協案もありますね。

尺に関しては、映像に合わせてナレーションを収録するという経験が全くない翻訳者さんが普通です。絵コンテ、ラフ映像が用意されているのに、「ワードで提供された、テキストだけの台本」にしがみついて翻訳してくる人が多いです。これは翻訳者だけでなく、最後に校閲するクライアントサイドの方も同様です。必ず尺と映像をよく見ながらの作業が必要です。ただ、最近はタイムコードがなくなりつつあるので、作業量が増します。

自分の翻訳原稿を映像に合わせて確かめて見る時、口元でぼそぼそしゃべるのではなく、背筋を伸ばして、はっきりマイクにむかって話す姿勢で(マイクはないので気持ちの話です)行うことをお薦めします。しっかり発音しながらしゃべるのと、口元でぼそぼそではスピードが違います。ただ、日本に長くいる英語ナレーターは、少しスピードが遅めです。なぜなら彼らは、英語圏以外の人にもわかるようゆっくりナレーションして欲しいというリクエストに常に応じているからです。本当に英語圏だけの場合とそうでない場合のちょっとした違いも認識しながら作業を進めるといいとでしょう。
次はタイミングです。

語順が、日本語と外国語は異なるので、基本日本語に合わせて作っている映像に翻訳が当てはまらないことがよくあります。 よく海外の事業所を紹介する時に、世界地図を出しておいて、中国、ヨーロッパ、南米。。。と支社の拠点を次々に表示する映像があります。たいていのディレクターはこの映像とナレーションのタイミングを合わせたいといいます。 けれども外国語は先に「(ビジネスを拡大)しています」を言うので、日本語を元に作られた映像とずれてしまいます。こういう問題は、翻訳だけではなかなか解決できないので、映像制作の段階で海外向けも念頭に入れる場合は、少し余裕をいれつつ編集することを強くお願いしたいですね。

Q) ビジネス系のお仕事では、伝える相手によって特に意識する点などはありますか?

同じ英語でも、グローバル言語としてのアメリカなのか、あるいはヨーロッパをターゲットとしたイギリス英語なのか、ナレーターを選ぶ段階で「じゃ、イギリス英語で」と指定する場合があります。翻訳はアメリカ英語なのに、ナレーションはイギリス英語では、言い回しや、単位が異なります。できれば翻訳の段階で決めるべきだと思います。

また、 同じスペイン語、ポルトガル語でも基本的には南米向けが多く、「ブラジルのポルトガル語」で翻訳し、そのネイティブなナレーターでの吹き替えを指定依頼されることが多いです。 こちらもネイティブに聞くと、別物と考える方が良いみたいです。

その他、飛行機会社がクライアントの場合 better, best を使うよりhigher, highestを使う表現が好まれるようです。(笑)

Q) 皆さんが、仕事をする上で大切にしていることをお聞かせください。 例えば、お客様とのコミュニケーションやレスポンスなど、いかがでしょうか。

基本的なやりとりは、映像の制作会社か、代理店のプロデューサーを通じて行われています。

クライアントの社内に少数の「英語の分かる人」が存在する場合、せっかくのネイティブらしい素敵な表現が、昔の教科書で習った not only but also みたいな英語に修正されてがっかりすることがあります。これはクライアントサイドの映像制作の担当者が翻訳原稿のチェックを社内に依頼するときに、チェックのポイントを説明していない、または説明不足が原因だと思います。プロの翻訳を、間違った英語で修正してくる場合もよくあります。クライアントだけに、間違いの指摘はしづらいですが、根気よく修正文にさらに注釈を入れたりして、なるべくよい文章になるよう試みます。それでお互い理解しあえれば、よりよい台本に仕上がると思います。このような経緯を考えると、短納期では対処できませんね。また、自分の翻訳を否定されてがっかりする翻訳者を励ましたりするのもコーディネイターの仕事です(笑)。

Q) それでは、依頼したくなる翻訳者さんはどの分野でも同じかと思います。 どういった翻訳者さんに依頼をしたいですか? またはしていますか?

日本人のクライアントが最終チェックをするということを念頭に置いて、的確なコメントを入れてくれる翻訳者さんには頭がさがります。 「ん?この日本文ちゃんと訳されてるかな?」という箇所に「この言葉で表現しています」とコメントで補足されていたりすると、モニターに向かって手を合わせます。(笑)